一日一生(6月号)
「私の読書ノート」
皆様こんにちは。6月7日でしたか?関東地方も梅雨に入りました。しかし、雨はご挨拶程度で、5月に引き続き夏のような日が続いています。寒暖の差が大きく、体調を崩している方も多いのではないかと心配しております。連日、悲惨なニュースが聞こえてきますが、生活に終われているために、私の周りの人たちの多くは、それほど関心をもっていないように感じます。物事に慣れすぎていて、感覚が麻痺し、考えることを放棄してしまうと、マスメディアにコントロールされてしまうのではないかと懸念しております。自戒を込めて日々ニュースを聞くようにしています。
5月26日のこと、私の右の耳が突然聞こえなくなりました。綿を詰められたような感覚です。直ぐに病院へ行けば良かったのですが、二日間どうしても予約があり、三日目に耳鼻科へ行きました。親切なドクターと看護師によって、聴力検査をしました。すると、確かに左右の聴力には大きな変化がありました。先生から2種類の薬をいただいて帰宅しました。二日目・三日目と日が経つにつれて、私の右の耳も聞こえるようになりました。そして、1週間後には、ほぼ以前と同様になりました。目の不自由な私にとりまして、耳が聞こえることは何と感謝なことか!また、全国には全盲・全聾人が1万人いると聞いております。どんなに大変か、些細な経験からそのようなことを思わずにはいられませんでした。
今回は、最近読んだ本の紹介と感想を書きます。皆様にもお勧めいたします。
1 恩田陸著「蜜蜂と遠雷」
昨年、直木賞を受賞した本、本屋大賞も受賞したと聞いております。507ページに渡る長編小説ですが、音楽愛好者にはうってつけではないかと思います。これは、国際音楽コンクールを目指しての激しい練習と争い、時には挫折感、そこから再び立ち上がる姿が詳細に書かれております。
6人の音楽家が中心になっています。特に、あやは、生まれながらの音楽天才少女でした。しかし、13歳の時に、突然、コンサートの最中に脱走するという、思いがけないことがおきます。
それから7年後、話しは、本論になります。第1次審査には90人、2次審査には24人、3次には12人、そして本大会では関門を突破した6人が1位を目指して争うのです。その中には、人間関係が悲喜こもごもあります。ミステリーではないかとも感じられます。
ピアノによるコンクールです。私には理解できないこともあったかも知れません。しかし、道一筋、どんなことでも真剣に関わる時、あいつうじることがあるのではないかと感じました。この小説の最初の所に、音楽家とは、小説家と似たようなことが多いというのです。狭い部屋の中、ピアニストは、朝から晩までキーをたたき続ける。小説家も、狭い部屋の中で、パソコンを一日たたき続けるというのです。それに、一人での仕事、孤独なところは同じだとありました。スポーツ選手とは確かに違いますね。
本を読んでもう一つ教えられたことがあります。それは、音楽を演奏する人の想像力の素晴らしさです。例えば、ベートーベンの田園交響曲を聴く時に、私などは音楽の素晴らしさ、音のすばらしさに感動しますが、演奏する人たちは、田園風景、畑で仕事をする人たち、その生き様、そらでさえずる小鳥たちの声を聞きながら演奏するというのです。作曲する人たちにも、そのようなイメージと想像力がはたらいて、あのような素晴らしい作品が次々と生まれて来るのですね。
クラシックばかりでなく、ポップス、歌謡曲でも同様だと聴いております。加山雄三さんの話しをきいたことがあります。加山さんは、クラシックも作曲していますが、朝おきる時に、ある時、自然に音楽が頭の中にうかんで来るというのです。ですから、常に手元にノートとペンをおいて、楽譜にすると言っていました。小説家も同様に、インスピレーションが働くのだと感じました。音楽に携わる人たちは、休む間もなく、練習にいそしんでいることを、具体的な形で教えられました。
芸術の評価は難しいと思います。音楽、小説、油絵などなど、評価は分かれますからね。作曲する人の気持ち、演奏する人の気持ち、共通するところもあるでしょう。しかし、今回の本では、コンクールに望む当事者の厳しさ、難しさ、絶望と希望を知ることができました。
恩田陸さんは、1964年生まれ。早稲田大学ではオーケストラ部に所属して、男性と誤解されますが、女性です。
2 塩田武士著「罪の声」
昨年出版された本です。皆様は1984年におきた、グリコ・森永事件というニュースを覚えていらっしゃいますか?当時は、連日マスコミをにぎわせた事件でした。
一つは、お菓子の中に毒物を入れたというニュースで、大変な騒ぎになりました。もう一つは、グリコの社長が何者かに誘拐されて、多額の身代金を取られたというニュースです。今なお、犯人は捕まっておりません。あれから33年になります。時効が成立してしまいました。
本書は当時のニュースや関連の書物を元に書かれた本です。フィクションとなっていますが、ほとんど事実に近いことと思われます。ミステリー小説のようですが、実際におきた事件と密接にかかわりがあるので、その頃のニュースを記憶している私には、物語とは思われないほどの真実をもって迫ってきました。
内容を詳細に書くことはできません。しかし、著者が念入りに調査し書き上げた素晴らしい本だと思います。物語では、阿久津という記者が登場して、あきらめないで、真実に迫ります。
あの頃のニュースでは、犯人は狐目をした男、そして、大阪の警察官がもう一歩の所で犯人を取り逃がしてしまいました。大阪、滋賀県、奈良県の県警の連携がうまくいっていなかったことによるもので、オウムサリン事件などとも同様ですね。グリコ森永事件では、身代金の受け取りには、男の子と女の子の声が使われました。当時のニュースでは、どうして、こんな事件に子供を使うのかとの批判が噴出しました。
この本では、その子どもたちを含めての犯人が、結論として書かれています。時効が成立していること、警察も、もはや関わっていないので、塩田さんは、フィクションとしたのではないかと、私は推測しております。
最近のニュースでも、子どもたちの虐待、イジメによって、自殺者が後を絶ちません。4月に起きた、仙台市の中学2年生の自殺を聞いた時、耳を疑いました。日本では、戦争が起きてはいませんが、子どもたちにとっては、正に生きるか死ぬか、日々、戦争の中にあるのではないかと感じてしまいました。誰も助けてやることができなかった。まして、そのイジメの中に、教師が入っていた…?言葉がありません。
もっとも、日本の社会では、国会をはじめ、話せばわかるではなく、話しても話にならない状態。権力者が、傍若無人、問答無用の社会になっているのですから、出るのは、ためいきでしょうか?
それでも、今日、明日と、希望をもって生きないと、生きる活力はでてきませんからね。
さあ、ますます暑くなります。お互いに健康に留意して、夏を乗り切りましょう。
「良い夫婦 今ではどうでも 良い夫婦」サラリーマン川柳より
「我が家には 車は無いが 火の車」啓
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