第13回 集団的自衛権について




 皆様こんにちは。お元気ですか?早いもので、7月も半ばに入ろうとしております。学校では19日から、夏休みでしょうか?我が家の高校2年生は、ワープロ部に所属していますが、夏休み中も、日曜日とお盆を除いて、8時半から午後1時まで部活動のために登校します。学校に行くのが楽しくてたまらないといっています。私たちにとっても嬉しいことです。今月で17歳の誕生日を迎える娘、彼女から生きる力を与えられているような気がします。
 さて、今回は先ごろ内閣が決議した「集団的自衛権」について、どうして安倍総理が急ぐのか?これまでの経緯を踏まえてのレポートが、7月1日・yahooの個人投稿覧にまとめて書かれてありました。一橋大学名誉教授・渡部治先生のレポートです。ラジオを聞いていると、個別的自衛権と混乱をしている方がまだ多いようです。今回は、渡部先生のレポートから引用させていただきます。この場をお借りして感謝申し上げます。以下引用文です。
1 明文改憲でなく解釈改憲で乗り切る道
 この課題に対して、自民党政権は明文改憲による9条廃棄という路線を取らずに、憲法9条をそのままにしてその中味を解釈や立法で変えてしまう解釈改憲で事態を乗り切ろうとしてきました。改憲案は41も出されたのですが、自民党政権は、国会で改憲案を通して、国民投票で明文改憲を行う路線は取らずに、解釈改憲で行うことを決めたのです。その理由は2つありました。
 1つは、アメリカの要求が急すぎて、明文改憲をやっている時間がなかったということです。湾岸戦争から始まって、アメリカは次々と戦争を行い、その度に早く自衛隊を出せと言ってくるわけで、明文改憲を行っているのでは間に合わないのです。
 2つめは、明文改憲は政権にとって危険すぎるという点です。明文改憲を行った場合は、アジアの人々だけではなく、日本国民の強烈な反発を受けるため、自民党政権は解釈改憲の道を取ったのです。
 それを実行に移したのが小泉政権です。2001年の9.11テロ事件に対して、アメリカがアフガンのタリバン政権攻撃に乗り出すと、小泉政権は「国際貢献」を理由に、ついにインド洋海域に自衛隊を派遣しました。そして2003年にイラク戦争が始まると、ついに他国の地上に自衛隊を派兵した。これを、憲法をいじらずに解釈によって強行したわけです。ここで大きく憲法の状況は変わったのですが、実はこの自衛隊のイラク派兵やインド洋海域への派兵は、解釈改憲の限界を持たざるを得ませんでした。その最大の限界は何かというと、アメリカが最も強く求めていた「共に血を流せ」、つまり自衛隊が海外でアメリカ軍と共同軍事行動をとることができなかったという点です。海外には行ったけれど、当時の解釈改憲は、政府が60年以降再三にわたって作り上げてきた、「自衛隊は海外派兵をしない」「集団的自衛権行使は認められない」「武力行使と一体になった活動はできない」「攻撃するための兵器は持たない」という解釈の体系を壊さないで、それをすり抜ける形で自衛隊を派兵したのです。小泉政権の解釈改憲というのは、憲法9条についての解釈を変えてしまうのではなく、政府解釈を維持した上で、それをすり抜ける形でやった。「自衛隊の海外派兵はしない」という原則は変えません、「自衛隊のイラクへの出動は、政府が禁止している派兵ではなく派遣です」という形で突破したのです。
 「共に血を流せ」とするアメリカの圧力の強まりでは、禁止されている「海外派兵」とは何か。武力行使目的で自衛隊を進駐させた場合は海外派兵だから、これは認められない。しかし復興支援に行く、あるいは今回フィリピンに行っているように、災害復旧支援に行く、そのために自衛隊が海外に出動するのは「派遣」であって「派兵」ではない。これは認められるという形でイラクに派兵したわけです。既存の政府解釈を維持したまま行ったために、サマワに行った自衛隊は1発の銃も撃つことができなかった。その結果、極めて皮肉にも、未だにイラクの国民からは「日本の自衛隊は英米の多国籍軍とは違う」と言われています。何が違うかというと、彼らは私達イラクの国民を殺さなかった、銃を向けなかったというわけですね。また自衛隊の側からいえば、1人の自衛官も戦闘で死んでいない。そういう意味では極めて特異な形、制限された形でしか行けなかったわけで、それがアメリカにとっては気に食わない。「13年かけてそれだけか?」ということで、解釈改憲の限界を突破して、「共に血を流す軍隊に変われ」と、2003年のイラク派遣の後にブッシュ政権から強く言われるようになりました。
2 第1次安倍政権の明文改憲政策を破綻させた九条の会
 そこで、解釈改憲の限界を突破するには、明文改憲を行うしかないということで、登場したのが第1次安倍政権です。第1次安倍政権の明文改憲政策は、まさにアメリカの強い圧力と苛立ちを受け止めて、小泉までの政権でできなかった解釈改憲の限界を突破するというものでした。ところが、この明文改憲はものの見事に失敗します。安保闘争のような数十万の人間が国会を取り囲む状況にはならなかったけれど、九条の会が全国で7,500もつくられる。そしてその九条の会が全国津々浦々で様々な形で集会や9の日行動を行うようになりました。おそらく100万人以上の市民が動いたと思いますが、その中で、大きな変化が生まれた。国民の憲法についての世論が大きく変わってきたのです。九条の会が増えるのと並行して、憲法改正に関する世論に変化が現れました。読売新聞の世論調査でも、九条の会ができた2004年には、65%あった改憲賛成の世論が、九条の会が増えるにしたがって減り、改憲反対の世論が増える中で、2008年4月の世論調査では、改憲賛成42.5%、反対43.1%と逆転してしまったのです。そうなってくると、明文改憲の最後のハードルである国民投票を行っても、改憲反対の方が賛成よりも多いという状況がつくられてしまうので、明文改憲に打って出られない。こうした国民的な運動がつくりだした状況の中で、第1次安倍政権における明文改憲政策はものの見事に破綻しました。
 今回の第2次安倍政権は、そのリベンジとして登場したのです。目標は同じで、集団的自衛権の行使を容認して、軍事行動できなかった自衛隊を、今度こそアメリカ軍と共同の軍事行動を行える軍隊に変える。「戦争をできる軍隊」に自衛隊を変えることが、安倍改憲の大きな目標です。だから国会の中でも安倍首相は、「集団的自衛権の行使を容認する」、ここに焦点を合わせるんだと発言するわけです。首相が国会で集団的自衛権行使を容認することをめざすと明言したのは、今国会の施政方針演説が初めてです。そういう意味では、安倍政権の目標がそこに設定されていることは非常にはっきりしています。
3 安倍首相の「積極的平和主義」の狙い
 安倍首相は「積極的平和主義」という言葉も掲げていますが、その狙いは何でしょうか?今国会の施政方針演説では、「積極的平和主義」を掲げたり、集団的自衛権の行使の容認を、安保法制懇の報告を踏まえて行うと言ったりしていますが、2つ重要なポイントがあります。
 1つは、安倍改憲の中心が集団的自衛権にあるということを明言したことです。もう1つは、その改憲を解釈でやると言ったことです。後者は第1次安倍政権とまったく違うところです。この2つを明言したことが重要な点です。
4 戦後の平和主義を根本的に転換
 1つめのポイントから考えてみましょう。自衛隊が海外で米軍と共同軍事行動を進めることを安倍政権は「積極的平和主義」と表現しています。今まで日本が戦後69年掲げてきた平和主義は、武力で相手国を脅したり、あるいは武力行使で国益の確保を図るようなことはしないというものでした。つまり再び侵略の銃を取らないというのが日本の平和主義の最も大きな原則だったわけです。ところが、安倍政権はそうした戦後日本の平和主義を「消極的平和主義」「一国平和主義」だとし、それでは世界の平和は守れないというわけです。日本が侵略の銃を取らないことは実は世界の平和にとってとても大きな意味を持っているのですが、安倍政権はそれを全く認めない。むしろアメリカの要請に基づいて、日本がアメリカと共に血を流す、自由な市場秩序を守るために、イラクやシリアや中国や北朝鮮に派兵することによって、世界の平和と秩序は守れると言っています。これは日本が戦後69年掲げてきた平和主義を根本的に転換する発想です。それを安倍政権は「積極的平和主義」と呼び、自衛隊が米軍とともに海外にプレゼンスすることによって、世界の平和に貢献するのだと言っているのです。自衛隊が侵略の銃をとらない、海外で軍事行動をとらないことによって世界の平和を実現するのではなくて、逆に自衛隊が海外で軍事行動をすることによって、国際的な平和を実現するというのが安倍政権の「積極的平和主義」で、これはまさしく集団的自衛権によって米軍と共同で軍事行動をとることを宣言した言葉です。
5 アメリカの世界戦略、戦争政策の転換
 では、それを解釈改憲でやるのはどうしてなのか。第2の点を検討しましょう。先ほど言ったように、そもそも第1次安倍政権で明文改憲を唱えたのは、小泉政権までの解釈改憲の限界を突破するためでした。解釈改憲では軍事行動ができないということで明文改憲を唱えたはずなのに、今回の安倍政権は、再びそれを解釈でやろうという方針を掲げている。これには2つ理由があります。
 1つは、アメリカの世界戦略が変わったということです。アメリカは自由な市場秩序を守るために、場合によっては武力で政権を転覆して「自由な」市場秩序を守り、拡大するという形で戦争してきました。イラクに兵を出し、アフガニスタンのタリバン政権を倒し、再びイラクで戦争をした。つまりアメリカは、20年以上に渡って自由な市場秩序のために戦争を繰り返してきたわけです。そして2つの結果が生じました。1つは、第2次世界大戦時の日本と同様、未曾有の財政破綻です。アメリカは20年以上も戦費を使い続けた結果、公務が全部止まりました。あれは共和党との対立とも言われていますが、対立の最大のポイントは財政破綻です。もう1つは、国民の厭戦意識、反戦意識が強くなったことです。この2つの結果、オバマ政権は今までの戦争政策を転換せざるを得ない事態に直面しているのです。
 第1の転換は、直接介入主義の放棄です。アメリカのこれまでの戦争政策を、基本的に私は「直接介入主義」と呼んでいます。大企業本位の世界秩序を維持するために、米軍が直接出て行って、場合によっては武力行使をしてでも維持を図るという方式です。これを転換せざるを得なくなりました。しかしだからといって、この自由な市場秩序に対するアメリカの覇権を放棄するわけにはいかない。それではどうするのか?
6 多国間協調・肩代わり・リバランス戦略
 1つは「多国間協調主義」といって、できるだけ戦争に持ち込まないというやり方を使う。イランやシリアや北朝鮮の暴発を、ロシアや中国とも協調し巻き込んで抑え込むというやり方です。多国間協調主義でできるだけ戦争に持ち込まないということになると、同盟国とだけ協調していたのでは不十分で、ロシアや中国などとも協調しながら世界の秩序維持を図り、ある意味ではロシアや中国に、シリアや北朝鮮という国の問題も責任分担をさせることによって、できるだけ大企業本位の秩序を維持する必要が出てきます。
 2つめは、自分達の人とカネを肩代わりさせる「肩代わり戦略」です。日本やドイツ、NATO、オーストラリアなどに肩代わりさせる。それによって、人もカネもアメリカの負担を軽減するという方式が出てきます。
 第2の転換は、そうやって節約したカネと人を、財政再建に充てるだけではなく、この20年の戦争の中で衰退したアメリカの覇権を再建するための新しい戦略に使うということです。つまりアジア太平洋地域に重点的に軍事力もカネも使うという政策です。オバマ政権は、これを「リバランス戦略」として、アジアの中でのバランスを取り直すという政策として打ち出しているわけです、なぜアジア太平洋かというと、今世界の中で成長しているのはアジアだけだからです。中国、インド、そしてASEAN、そこに、少し衰えていますが、韓国と日本。この成長の領域に軍事力とカネを使って、アメリカの多国籍企業がアジアに進出し、安定した覇権の再確立をするという政策を取る。これが第2の政策です。
7 アジア太平洋重視の「新型大国関係」
 この問題でカギになるのは、アジア太平洋地域です。本当であればアメリカ一国でやりたいのですが、そうはいかない。アジア太平洋地域のリバランスをとるための最大の焦点は中国だということで、中国に対する2面的な政策が出されてくる。1つは、アジア太平洋地域で大企業が自由に活動できる市場をつくるために、中国と同盟管理をすることです。中国に北朝鮮の暴発を防がせる形で、中国と協調しながらアジア太平洋秩序を維持する。同時に中国が独自の覇権主義という形でアメリカに歯向かうような覇権を確立しようとする時には、アメリカは力で中国を包囲する。その時には日本やオーストラリア、インドネシア、フィリピンなどを動員しながら、中国の覇権主義を抑える。こういう2つの側面の政策をとることによって、アジア太平洋地域でアメリカの覇権を再確立するという戦略を取っています。中国もこれに呼応して、アジア太平洋地域の覇権を、米中が東西で分割する「新型大国関係」を提唱しています。
8 「アメリカの手下として軍事行動せよ」
 この「肩代わり戦略」と「アジア太平洋重視戦略」のいずれからも、対日政策は大きく変わることになります。まず「肩代わり戦略」では、日本を米軍の手下として働かせるということです。また、日本にカネを出させて、アジア太平洋地域における防衛分担をもっとさせるという点で、アメリカは日本に、人もカネも要求する。その中でポイントになるのは、カネだけでなく集団的自衛権を早く認めさせて、日米共同軍事行動でヒトの面からもできるだけ日本に分担させるという形の要請が出てきたことです。そういう意味でいうと、集団的自衛権を早く認めろというアメリカの90年以来の要求は、少し形を変えて、「共に血を流せ」ではなく「アメリカの代わりに手下として軍事行動せよ」という要求として集団的自衛権を要求しているのです。
 2つめの「アジア太平洋重視戦略」では、日本のあからさまな軍事大国化は今までに増して困るため、それは抑圧しなければならないという要請が出てくる。それは何かというと、アジア太平洋地域の同盟政策を安定させる上で焦点となる中国が、一番怖れているのが日本の軍事大国化だからです。またアジア諸国も日本の軍事大国化を怖れている。特に韓国が顕著です。そうなってくると、アメリカとしては日本のあからさまな復古的軍事大国化は、アジア太平洋地域の安定を損なう意味でも、また焦点となる中国のアメリカとの合意によるアジア・太平洋の秩序を維持する上でも、どうしても抑え込まなくてはいけない。これがアメリカの大きな考え方として出てきています。
9 「おとなしく」共同軍事行動というアメリカの注文は安倍政権にとって厄介
 この2つを合わせると、オバマ政権の要求は、米軍の手下として早く共同軍事行動を認め、しかしそれはあからさまな明文改憲ではなく、「おとなしく」やってほしい。つまり明文改憲とかを言わずに、解釈でやってほしいと言うことになります。これは安倍政権にとっては非常に苦しいことなんですね。というのは、安倍政権が改憲や集団的自衛権の容認を国民に訴える最大のテコは、尖閣問題や中国の横暴という問題です。ところがアメリカは、中国と敵対しないで、早くやれと言うわけです。つまり安倍政権にとっては極めて厄介な注文がアメリカによって押しつけらているのです。安倍政権が解釈改憲路線を採る理由は、それだけではありません。第1次安倍政権は明文改憲で失敗しているので、2度と同じ失敗は許されない。これも安倍政権に大きくのしかかっています。
10 ちゃぶ台返しの解釈改憲
 ここで出てくるのが、集団的自衛権の行使容認、「戦争する軍隊づくり」を徹底して解釈改憲でやるという路線です。それも今までのようなレベルの解釈改憲ではダメなので、60年続いてきた政府解釈、つまり「固有の自衛権」「自衛のための最小限度の実力」「そのための集団的自衛権行使の禁止」「海外派兵はしない」という憲法解釈の体系自体を、解釈でひっくり返すというわけです。敢えていえば60年間で政府自身が認めてきた解釈を、ちゃぶ台返しでひっくり返すことによって、自衛隊を戦争できる軍隊にするというのが、安倍政権の今回の解釈改憲の大きなねらいだということです。
 この夏は、戦争と平和について、ゆっくりと考え、話し合う時をもてると良いですね。
 大泣きで 我を通すなと 子に言えず 
 平和より大切なのね 与党の和(時事川柳より)
 次回は、7月26日です。お元気で。




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