第15回 日本の貧困を考える




 皆様、残暑お見舞い申し上げます。暦の上では早立秋となりました。まだまだ暑い日は続くかと思いますが、太陽の沈む時間は刻々と早くなっているようです。8月6日は広島に、9日は長崎に原爆が投下されました。7月30日には、原爆を投下した最後の元米兵が、93歳でこの世を去りました。原子爆弾を「リトルボーイ」とアメリカでは呼んでいます。このことについて、日本を降服させるための止むを得ない手段であったという説が多数ですが、他方、トルーマン大統領は「原爆の威力がどの程度なのか試してみたかった」との説もあります。今晩10時からは総合テレビで、その詳細が放映されます。やはり、戦争をすると、どんなことも大義名分になることを、今日もニュースを通して知ることができます。
 さて、今日から甲子園球状では、夏の高校野球が始まります。台風が心配です。栃木県代表の作新学院ですが、1962年以来、優勝の声を聞いておりません。あれから52年が過ぎました。そろそろその時が来ても良いのではないかと思うのですが、とにかく楽しい夏の終わりの時です。
 さて、今回はあまり嬉しい話ではありませんが、新聞・週刊誌で取り上げている、「貧困」について書きます。
 これは、実は日本だけの問題ではありません。アメリカでも、年収2万ドル(約2百万円)程度の家庭が増えているとの報道があります。世界では、1日1ドルの生活をしいられている人たちが16億人と言われています。ヨーロッパでも失業者が10パーセントを超え、アメリカでもあいかわらず、7パーセントを上下しています。日本でも、3,7パーセントを上下しています。失業率が2パーセントから3パーセントになったというのは20年前のことでした。約3百万人が仕事を求めているのです。
1 増える子どもたちの貧困層
 最近の報道によると、16パーセントの子どもたちが貧困に苦しんでいるとありました。そこで、皆様にお聞きします。貧困とはどの程度をさすと思いますか?私は、年収200万円程度かな?と、思っておりました。新聞によると、年収125万円以下が、その定義に当たるというのです。子どもたちの16パーセントが、そのような生活の中で苦しんでいるというのです。15歳未満の子どもの数は、1633万人です。その16パーセントといいますと、私の計算では、250万人になるかと思います。その中の10パーセントが生活保護を受けているので、何とか生活をしているのです。10人に9人は、低所得の中で、母子家庭(シングルマザー)と共に暮らしています。どうしてそんなに所得が増えないのか、子育てをしながら働いているほかありません。母子家庭の数は123万8千所帯です。その中の48パーセントが、年収125万円未満というのです。母子家庭の平均給与は181万円といいますから、月額15万円あればまだ良いということになります。しかし、250万人に及ぶ子どもたちの生活が貧困にあえいでいるのです。これは、シングルマザーの家庭だけではなく、父子家庭も含まれていると思います。離婚をして、子どもと暮らしているのは、圧倒的に母親です。昼間から夕方まで働き、夜働くという、ダブルの仕事をしている母親が増えているようです。お金が無くて修学旅行にいけない子ども、給食費を納められない家庭、水道を止められて、公園にある蛇口からペットボトルに水を入れている家庭などのニュースを聞くと悲しくなります。
 神奈川県で、ベビーシッターに預けられた、2歳の男の子が殺害されるという、悲惨な事件が起きてしまいました。その母親には二人の幼い子どもがいました。ダブルの仕事をしながら、子育てをしていました。彼女の夜の給与は、時給1100円でした。夜のベビーシッターは時給2千円から3千円ですが、ネットで探すと、時給500円とあります。そこで、彼女は、急な仕事が入ったので、ベビーシッターを捜しました。ところが偽名を使った、以前の男に頼むことになってしまったというニュースでした。これには、賛否両論がネットをにぎわせました。そもそも知らない人に子どもを預けるとは大きな間違いではないか?等という声が多くありました。しかし、これは、都会と地方との大きな落差によることと思います。都会のマンションでは、隣の人のこともわかりません。そこで、ネットを使って相談をしたり、様々なことを頼む時代となったようです。インターネットは限りなく便利で、様々な利点があります。しかし、反面恐ろしい事件も引き起こしています。昨年の10月には、東京では18歳の女子高生が、ネットで知り合った男性から殺害されました。第1審では、懲役22年という判決がでました。その他、振り込め詐欺、投資詐欺、数知れません。
 母子家庭・父子家庭の貧困層は、悲しいことにこれからも増えるのではないかと心配しています。安倍総理の言葉とはうらはらに、経済は後退し始めました。インフレにしようとしても、給与は、一部と大企業だけで、90パーセントの中小企業では下がってきています。最近の新聞では、時給694円の県が9県あるというのです。真夏の中、草刈をした男性の時給は、750円、どうしてこんなに貧しい国になってしまったのでしょうか?国税庁の調査によると、女性の平均年収は268万円に対して、男性は502万円だといいます。
 ここで、最近我が家で体験したことを少し書きます。我が家は高校生の娘を預かっております。今年になって、娘が2年生になり、PTAの地域単位での市部会の役員をしなければならなくなりました。対象者は30人いるのです。学校に行っている、女子高生たちの保護者の集まりです。私の妻は、多くの保護者たちは30代から40代だから、若い人たちに任せれば良いだろうと、思いつつ出かけました。行ってみると、そこに出席した人は、何と4人だけ、そこで、決めなければならないのは、支部長・会計・書記の4人です。みなさん、異口同音に「私は仕事をしています。母子家庭です。昼も夜も仕事をしているから、副ならばいいけれど支部長はできません…。」との、押し問答が1時間続きました。ついに、妻が支部長になることになってしまいました。このことから、母親たちが、家庭を支えるために働かなければならないこと、離婚をしている家庭が何と多いことかを知ることになりました。
 会議の連絡を、往復はがきで30枚出しても、返って来たのは8枚でした。もっとも、文芸春秋7月号には、返事のないドクターたちという記事がありました。簡単に書きますと,医師たちの宿泊付きの研修会の案内を出しても、いっこうに返事が来ないので、みなさん欠席と判断して、主催者はホテルの予約もとりませんでした。ところが会議当日、堂々と医師たちがやって来ました。「欠席ではないのですか?」と、主催者が聞くと、「出席だから返事をしなかったよ。」とのお言葉。いやはや意思の強さに、主催者は、返す言葉がなかったとありました。そういえば、学校でも、研究大会の案内を送っても、電話で催促をしないと出欠の返事が来ないことが多くありましたっけ。これって「ジェジェジェ」ですよね!
2 増える高齢者の貧困層
 高齢者は、自然増で増えています。60歳以上の人口は、3人に1人ですから4千7百万人になります。長生きをする人たちが増えることは望ましいことです。しかし、独居老人、認知症の高齢者も比例しています。
 その高齢者を分類しますと、年金生活者が、2400万人超といいます。1千万人の人たちが仕事をしています。この中には、年金を受給しながら仕事もしている人も数多くいます。この人たちは大変幸せな人たちと思います。
 まず、年金生活者について考察してみます。厚生労働省の発表によると、平均的年金生活者は、厚生年金・共済年金を含めて、夫の年金が17万円、妻の年金が6万円、合わせて23万円が平均的と言われています。我が家もだいたいこの範疇に入っております。
 さて、この年金生活者は、豊かな人生と言えるでしょうか?20年前の話でしたら、「悠々自適」といえると思います。どうしてか?当時の経済で言いますと、退職金を2千万円もらうと、それを定期預金にすれば、年間5,5パーセントの利子で、110万円の利子がつきました。これで、旅行をしたり、冠婚葬祭のお付き合いができました。つまり、退職金に手をつけなくても生活できたのです。ところが、現在の利子は、年利は0,01パーセントなのです。したがって、1年間の定期預金では、2千円の利子となり、それに対して20パーセントの税金がつきますので、利子は1600円となります。これでは夫婦でランチを楽しむのが精一杯ということになります。毎年、年金生活者にも、国民健康保険料を払わなければなりません。固定資産税、市民・県民税の請求もしっかり来ます。今年、私の所に来た、国民健康保険の支払額は、24万円程度でした。これを、二月に一度の年金では払えないので、退職金から徐々に引き落とさなければなりません。このようなことができる人たちは、まだ幸せな人たちになると思います。退職金は0、貯金も0という非正規社員も1千万人いることを聞いております。そのような人たちは、保険料の免除も可能と聞いておりますが、多くの場合、生活保護となります。そのような人たちが200万人になろうとしています、月収10万円の仕事をしながら、母親の介護をしている男性もいます。つまり、高齢者の貧困層も年々増加して行くことでしょう。
 そのような高齢者は、病気になっても病院に行けず、1人寂しく「孤独」な最後を迎えています。
 経済論では幸せは語れませんね。本人が幸せと感じない限り、どんなに財産を持っていても幸せとはいえません。しかし、憲法25条にあるように、文化的な最低限度の生活の保障をするのが国家・政府の義務と思います。もと総理大臣の経験者の年金(中曽根総理)は、1年間で1千万円といいます。過去の実績に対しての評価としての高額の年金を受給することは当然と思う人も沢山いることでしょう。しかし、このような貧困層が増え、非正規社員・契約社員が増えているこんにち、これで良いのかと、私は問わずにはいられません。
 現在では、若者の中でのエリート社員と非正規社員、離婚したシングルマザーとキャリアウーマン、高齢者の中での安定と不安定の格差が著しく見られるようになりました。石川啄木の詩を思い出します。「働けど 働けど 吾が暮らし楽にならず じっと手を見る」
 今回のエッセイを読んでくださる若い皆様、これを参考にして、20年後、30年後をイメージしてください。そのような時に、あなたはどのような人生を送るつもりでいますか?かつて、私が若い時にイメージした60代とは大きく違っています。しかし、私はそれでも、幸せで感謝な生活を送れることを神様に感謝しています。バラ色の人生だけが良いものではありません。「涙と共に食べた一切れのパンの味を知っている人だけが本当の人生の幸せを味わうことができる」とは、ドイツの詩人・ゲーテの言葉だったと記憶しております。
 お互いに健康に留意して、残暑を乗り越えてまいりましょう。次回は、8月23日を予定しております。



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