第17回 私の読書ノート(3)
「漂白される社会」




 皆様こんにちは、お 元気ですか。今年の夏は本当に不思議な季節でした。8月の25日からの6日間は秋を思わせるほど涼しく、長袖を着なければいられないほどの涼しさ、まるで避暑地にいるようでした。9月は暑くなると気象庁は言っていますが、オホーツクからの寒気団による高気圧が強く、小笠原からの高気圧はなかなか関東地方には、たどり着かないようです。21年ぶりの冷夏と聞いています。物価の上がることが心配です。
 さて、今回は私の読書ノートから、開沼博著、「漂白される社会」(ダイヤモンド社)をご紹介します。開沼さんは、1984年福島県岩城市出身。東京大学文学部、同大学院を卒業。現在大学院博士課程在学中。社会学者。
 今回の「漂白される社会」は、日本の現代社会を鋭くえぐった本だと思います。私が、宇都宮中央市立図書館に音訳をお願いして録音していただきました。デイジー図書になっていますので、視覚障害者の皆さんには是非お勧めします。この本は、貧困社会を生み出している現代社会を社会学者の立場から、論理的に分かりやすく解説してあります。単なる予測や主観的ではないと感じる本です。全体で400ページにおよぶ本なので、私の受けた印象をピックアップして書きます。
1 ホームレスのギャルたち
 この話しを読んで驚きました。若い女性たち、10代後半から20代前半の女性たちの中の多くが、時にはファミリーレストランで、一晩寝て過ごしたり、ネットカフェで過ごしたり、自分の生活の場所を持たないのです。お金があるときもありますが、その時はビジネスホテルに泊まることもあります。毎日どんなことをしているかというと、女性二人で夜になると、若い男性に目を付けて声をかけて、食事の相手をしたり、逆軟派のようなことをします。話し相手をするだけで5千円程度をもらうこともあります。最高は叔父さんと話しをしただけで5万円をもらったという話もありました。1人だと危険なので、仲の良い二人が組んで生活資金を稼いでいるというのです。家庭環境が良くなかったこともありますが、現代の若い女性の中にそういうギャルたちが増えているということです。キャパクラのホステスなどは、色々とうるさいから嫌だ!自分で直接稼いだ方が金になるというのです。人にうるさいことを言われるよりも、自分の力で直接お金を稼いだ方が、ずっと楽しいというのです。男性についても、見抜く力はあるので、騙されたりはしないよと、自信をもっています。東京・大阪の中心地で生活しているのです。
2 ハウスシェアについて
 ここ数年テレビドラマにもなっていますが、東京・大阪を中心に、ハウスシェア・ルームシェアが増えています。1軒の家を不特定の人たちと分け合って生活するというもので、私なりに考えると、これは欧米から来ているのだと思います。欧米では、大学等で、家や部屋を共用として使い、安く生活しようというものです。その形態も幾つもあるのです。比較的良いのは、一人一部屋を使っての「ハウスシェア」(家を分け合って使うこと)です。しかし、東京の家賃は一部屋でも7万円・8万円と高いので、多くは1件に20人が生活しているのです。一部屋を何箇所にも区切り、2段ベッドにして、カーテンを使います。まるで特急列車の4人用の寝台特急をイメージしてしまいます。料金は一月3万円程度です。アルバイトや派遣をしながらの「ハウスシェア」もいれば、大学生もいます。リストラにあった大人もいれば、元は会社の社長をしていましたが、倒産して、ハウスシェアに来ているというのです。ルールは、お互いにプライバシーを守ること、掃除などは役割を決めてするという約束事があります。ですから音楽を聴く時は、ヘッドフォンを使って聴くのです。男性よりも若い女性が多いといいます。地方からスーツケース1つを持って来ての生活です。そこで仕事を紹介してもらえるのが魅力とのことです。
 このハウスシェアに共通しているのは二つあります。それぞれが貧困から来ていること、もう1つは、不思議な共同体ということです。共に生活しているうちに、仲間意識が芽生えて、家族以上に仲が良くなり、父ちゃん・母ちゃんと呼び合い、姉さん・妹と呼び合う関係も出来て来るというのです恋人が見つかると、いつの間にか、その人は家を出て行くのです。正に漂白の社会です。反面、ニュースにはなりませんが、家の中での争いから、殺人事件も数件おきているというのです。こんな記事を読むと、私の盲学校時代を思い出さずにはいられません。寮生活も子どもたちが多いこともあり、私たちの生活していた部屋は、10畳の部屋に最も多い時は6人部屋でした。寝る時などは、布団をしくと、足の踏み場もない所でした。夜中にトイレに行く時は、うっかり足を踏んで「ごめんなさい」と謝っていました。寄宿舎に行くと4人部屋になっていました。それが現在は寄宿舎では、一部屋に二人または1人といいますから、実に恵まれた豪華な空間です。
 ハウスシェアは、言い換えれば「たこ部屋」と言われてもしかたがないと、本にも記述してありました。貧困であるが故に、また、何年も派遣社員や契約社員、パートタイマーを続けると、正社員になりたいという希望さえもつことができないという、現代の若者たち、中高年の「ブルース」を、聴いているような気持ちになりました。
 経済成長、3本の矢と、安倍総理は高らかに言い続けていますが、観覧車はしだいに下へ下へと下がっているのではないでしょうか。8月28日の新聞では、正社員の数が3294万人、そして非正規社員が1906万人とありました。1年前は35.2パーセントの比率でしたが、1.4パーセントも上がっています。40パーセントになるのも、残念ながらあまり遠くないことかも知れません。このように、若者たちを貧困へと追い込んでいるのはなんでしょうか?正に、政治の貧困そのものではないかと、私は思わずにはいられません。
 2年前の11月、野田総理と安倍さんが、党首討論をしましたね。「野田総理は近いうちに、近いうちに衆議院を解散すると言っているが、あなたは嘘つきだ!」と、激しく攻撃しました。その時、野田総理は、安倍さんに、「あなたはここで約束しますか?衆議院の定数を80人減らしましょう。それまでは、国会議員の給与を20パーセント削減をしましょう。」その約束はどうなっていますか?6月には国会議員の給与は、元に戻りました。定数削減の話はいっこうに決まりません。福島の原発も、遅々として改善されるどころか、どうにもとまらない、お手上げ状態ですからね。
3 闇金融会社の働き
 これは、事故破綻した人、リストラに会った人をターゲットに闇金では、生活保護を勧めています。そのために、マニュアルを作成し、どうしたら生活保護を受けられるかを詳細にアドバイスします。さらに、闇金では、彼らの生活場所を確保し、支給日には車で送迎し、一人当たり受け取る12万円の半分を、闇金が貰い受けるのです。仕事を失い、生きる希望を失った彼らは、6万円で、仲間意識をもって生活しています。ホームレスよりは良いだろうと考えて、そこから脱出することはしないのです。
4 未成年の女子を、闇の世界では、援助交際を取り仕切っています。
 10代の女の子たちはSNSで、手軽にお金を得ようとしますが、闇金たちが、もっと簡単に仕事ができるように 組織化し、都内ではワゴン車数台を動かして、未成年の女の子たちを使っているという、いわゆる「性奴隷的な役割」をしています。その関係では、デリバリーヘルスと言って、ホテルなどに女性を派遣する仕事もしています。女性たちは、手軽にできるだけ多くの収入を得ようとするのです。そこにはモラルよりも、とにかく金銭的感覚だけが支配してしまうのです。彼女たちの心と体は、金銭と豊かな生活に洗脳されていますから、人生を真剣に考えることをやめてしまっているという、実に悲しくやるせない事実が書かれています。
 江戸時代・昭和の初期の貧しい時は、家族のために、身をくずさざるを得ないという悲しい史実が日本にもありました。しかし、現代社会は、正に、楽しければ良い、何も考えないことにしているという、彼女たちの姿が感じられます。そして、それを満足している男たちも沢山いるのも、日本の社会混沌とした社会の事実があるのです。警察が取り締まり、未成年が補導されると携帯電話には時には公務員の名前が出てきたりします。その中に、教員や警察官の名前も数多くあります。情けない話ですが、これが真実なのです。人間の罪の深さを感じないではいられません。
 暴対法が成立し、オリンピックが決まり、町からは闇が消えたかに思えます。しかし、それとは反比例して、手の込んだ犯罪が底なし沼から伸びているのを感じます。振り込め詐欺、投資詐欺、あらゆる種類の詐欺は、さまざまなデータをそろえて演じられているのです。金儲けを考えている人には、投資詐欺、名義貸し詐欺があります。闇金では、町の中を歩き回れば、財産家、資産家などのリストが分かりますし、それらを何とかして手に入れようという、手練手管が用意されているのです。
5 賭博による闇社会
 賭博は法的に禁止されていることは言うまでもありません。しかし、この本位は、パチスロ、バカラ、そして野球の賭博まであります。パチンコは認められていますが、先に書いたものは、違法行為です。野球賭博について書きますと、例えばジャイアンツが勝つのは確率的にも高いので、ハンディをつけて、点差によっての勝敗での賭けをするというのです。かつて「黒い霧事件」といって、プロ野球選手が関わった事件もありましたが、今回の野球賭博は、野球選手とは無関係のものです。ギャンブル依存症が、日本には536万人いると聞きました。一発逆転を願う気持ちは誰にもあるでしょう。宝くじに当たればいいなあ!は、夢を買うことですね。
6 危険ドラック(脱法ハーブ)
 最近タレントばかりではなくて、市民の中にも、覚醒剤を悪用しての交通事故等の悲劇が続いています。その根本原因はわかりませんが、ハーブの名の下に、気軽に手に入りますが、「あなたは覚醒剤をやめますか?それとも人間やめますか?」とのAC JAPANのスポットが最近聞かれません。危険ドラッグによって、気持ちが高揚し、一時的に元気が出るというのです。問題は、慣れない人たちがわからずに使用するので、とんでもないことになるのだとありました。例えば医学の世界では麻薬が、治療として有効です。しかし、未成年たちが、遊び半分好奇心から危険ドラックに手を出すと依存症になってしまいます。薬物については、学校でも指導されるようになりました。しかし、何でも刺激を求める若者たちには思慮深い判断がないと、社会的に大変なことになると私は心配しています。タバコに対する社会からの排除によって、ドラッグへの関心が蔓延していると感じました。
7 「お兄さんマッサージはいかがですか?」
 大都会を中心に、中国エステが流行しています。今も、中国式マッサージ、タイ式マッサージという看板を出しているところもありますが、マッサージは国家資格がないと違法行為です。この本の最後のところに、中国から日本に留学に来て、エステ・中国式マッサージで、若い女性を使って大変成功をしている、40歳になる中国人の女性の人生ドラマが匿名で紹介されています。最近は警察側も厳しく取り締まるようになって来たとあります。そこで、リラクゼーションと名前を変えて、健全なマッサージをしているとありました。中には、いかがわしい風俗店も沢山あります。
 さて、指数にも限りがあります。私の感想を最後に書きます。開沼さんも書いておりましたが、今や日本の社会も、絶対安全・安心はないというのです。毎日の生活の中でも私の身の回りではリスクと危険が取り巻いていることを認識しなければならないことを痛感しました。8月20日には、広島県では一晩にして、大雨が降り、土砂崩れによって、80人におよぶ人たちの命が奪われ、20人におよぶ人たちが家を失いました。盲導犬と共に出勤しようとしていたら、駅でナイフを使って、盲導犬に怪我をさせたというニュースもありました。
 どんなニュースにしても、そのニュースがどこから出ているか、何の目的があるかを良く考えなければならないと思うようになりました。新聞やテレビ、週刊誌でも、まずはガセネタでライバルを引き降ろすというニュースも増えました。マスコミ同士の批難の応酬もあります。今日も危険があることを心にとめて生活しなければなりませんね。
 歌の1節に、「人生とは悲しいものですね。生きてることは、ただそれだけで悲しいことだと知りました」等という言葉が、切実に感じるこの頃です。
 芸術の秋となりました。明日(14日)は、福祉プラザで、視覚障害者の音楽交流会があります。そのレポートは次回、27日にいたします。



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