第20回 メディアと政府の綱引き合戦




 今回は、新聞と国会でにぎわせている、ニュースについて書くことにします。
1 朝日新聞の慰安婦発言の撤回について
 8月5日・6日の朝日新聞に、慰安婦についての吉田氏証言の謝罪文が書いてありました。簡単に書きますと、32年前に吉田という人が、戦争中に、軍が朝鮮半島から、若い女性たちを強制的に連れ出して、慰安婦として国家が関与したという記事でした。82年のニュースで、大変大きなニュースになりました。大スクープです。しかし、当初から、これには、軍は関与していない、誤報だろうとの話もありましたが、朝日新聞は、吉田さんの話しをうのみにして、絶対的なニュースとして貫きました。97年にも、あの記事はどうやらあやしいぞ!との話も朝日の中でも出ていたようです。しかし、大新聞のこと、いまさら謝罪することもできず、その頃、時を同じくして、河野官房長官が、軍が戦争中に慰安婦を含めての強制連行についての謝罪の談話を出しました。それが韓国を始め、欧米にも大きなニュースとなり、まして、韓国・中国に対して高姿勢をとり続ける、安倍総理への批判が増大して、慰安婦の銅像が、アメリカを含めてあちこちにできてしまいました。
 他社からの批判も出始めたこの時、先に書きましたが、8月になってから、慰安婦についての、吉田氏の記事は虚偽・誤報であったとの全面謝罪が掲載されました。それをきっかけに、10月の臨時国会では、次世代の党を中心に、朝日新聞は、記事を捏造し、世界中に慰安婦の虚偽を流し続けた32年間の罪は大きい。社長が謝罪して辞任しただけではすまない!国会で承認尋問すべきだ!河野談話も撤回すべきだとなっています。
 文芸春秋の10月号では、特集記事が組まれ、朝日新聞ばかりでなく、テレビやラジオのメディアも劣化しているとの、大コーラスとなりました。これに関して、解説を加えますと、実は、第71代総理大臣・中曽根康弘さんが、戦争中、将校として戦っていました。その時に、命がけで戦う若者たちが慰めを得るために、軍の承認を得て、慰安所を開設したことを、78年に「終わりなき海軍」という本の中で書いております。それは、どちらかといえば、当時は戦地で地元の国民に迷惑をかけないために、大変良いことだったとの理解でした。日本人からも、国の命令と思って、自分もやむなく、慰安所に行ったことがあるとの、告白文も書かれているのです。開沼博著「漂白される社会」の中には、日本のある島では、戦争に出兵する若者のために「慰めの島があった」との記事が書かれています。「男たちは日本のために命を捧げ、女性たちは身を捧げる時代であった」とあります。これらは、国家権力によるものであり、民間会社が、利益のためにしたこととはとても思えません。
 最近、韓国側からベトナム戦争の時に、ベトナムでは、韓国兵の慰安のために、慰安所を設けていたとの記事も掲載されるようになりました。繰り返しますが、中曽根元総理の書いた「終わりなき海軍」が世に出版された頃は、戦争中は止むを得ない、必要悪のように理解されていました。世界的に日本の慰安婦について、問題化されるようになったのは、91年に、スリランカの、クマダシュワミさん(クマさん)が、日本軍による韓国人女性に対する人権侵害として、国連の人権委員会に提訴したことから脚光をあびるようになりました。軍が慰安婦に関与していたことは、523件の実証される文献があるといいます。村山総理の謝罪、河野官房長官の謝罪談話は妥当と、私は思います。
 これは、朝日新聞にとっては、大きなダメージとなりました。1人の発言を元に、あたかも真実であるかのように推測で書いてしまったことは、大きなエラーとしか言えません。検察側が、かつて厚生労働省・村木局長を逮捕したことと同じようなことです。97年に謝罪していれば、これほどまでにならなかったことでしょう。朝日新聞の社長は、20年前頃から気づいてはいたのではないでしょうか?しかし、そのタイミングを逸してしまったのだと思います。正義を旗印にしている、朝日にとっては、断腸の思いだったと思います。では、今なぜ、朝日新聞は謝罪する決心をしたのでしょうか?これを当局に聞いても、話すはずはありません。他のメディアが推測して書くことと思います。私の推測は以下の通りです。
 それは、韓国・中国に対して強行姿勢を取り続ける安倍総理、靖国神社参拝など、韓国との関係は冷え切っています。普通ならば、そんなところに、朝日が謝罪文を出せば、安倍総理にとっては、「慰安婦はなかった!朝日のでっちあげだ!」と言わんばかりになることは、火を見るより明らかです。韓国にも、これまでのできごとを否定されたということで、朝日新聞への風当たりは暴風雨になるかも知れません。しかし、そこは政治ではないでしょうか?安倍総理が、慰安婦を否定すればするほど、韓国政府は「ああ、そうでしたか。」とはなりません。吉田氏の証言が誤報であったからといっても、慰安婦がなかったとは言えません。現に、私が慰安婦として、無理やりに日本に連れていかれましたとの証言をしている人たちが、今でも50人程度生存しているのです。この誤報を良いことに、全てを抹消することにはならないと思います。朝日新聞としては、謝罪するのは、安倍総理の、この高飛車な政治手法の時が、最も被害の少ない時だ!と、決断をしたのではないかと思うのです。ある意味では、この時をチャンスととらえたのかも知れません。それにしても、慰安婦イコール、女子挺身隊とは、低レベルとしか言いようがありません。日本の戦時中、若い女性たちは、挺身隊と言って、戦争のための兵器の労働にかりだされていたことは、その頃の本を読めば分かることですが、慰安所を挺身隊とひとまとめにしてしまったことは、大きな失策でした。
 当分の間は、、朝日バッシングが続くことかと思いますが、韓国の女性たちを慰安婦としてどのように処遇したかについては、政府が責任をもって調査しなければならないと思います。「そのような記録もなければ、歴史的証拠もありません。」では、韓国からの攻撃は続くことでしょう。さらに加えて、日本軍がインドネシアを占領した時に、オランダの女性たちを慰安婦にしたとも書いてあるのです。オランダ政府は、改めて抗議するかどうかは分かりませんが、朝日としては、謝罪文の中に書いた以上は、検証が必要ではないかと思います。オランダには、証人をする女性が、少なくとも一人存在するそうです。
 日ごろ、朝日のインターネットを読んでいる私にとりましては、残念なことです。私の考えでは、メディアは、それぞれの取材姿勢があっても良いと思います。読売、産経、日経等は、政府よりの記事を書きますし、朝日、毎日、東京新聞などは、政府を批判することによって、国民に対して「これで良いのか?」と、訴えているわけです。取材に当たっては、実証に基づいた記事の正確さを強く要望します。
2 福島原発事故の吉田調書について
 2011年3月11日の福島原発の時の、吉田所長の証言を、発表しました(慰安婦の虚偽を書いた、吉田氏とは異なります)。その中で、所長が、東電の職員に一時撤退は限られた人だけにするようにと言ったのに、職員のほとんどが、所長の命令を無視して、全員が逃げ出したと報道しました。しかし、これは後に、政府も、吉田所長の調書を発表したことにより、朝日新聞の報道に誤りがあったことが明らかになりました。それは、所長が、職員のほとんどに一時撤退するように言ったのであって、従業員がかってに命令違反をしたということではないということがわかりました。
 当初は、政府は吉田所長の調書については、非公開にしたかったのです。本人の希望もあるし、多くの人にかかわるからというのが、その中心となる理由でした。しかし、朝日新聞が、吉田調書を入手して発表することとなり、他の新聞社も、「遅れてはなるまい」とばかりに、吉田調書を手に入れました。所長の命令に関する誤報については、訂正と謝罪が、所長の名誉のために必要だったと思います。しかし、この記事の掲載は大変大きなスクープでした。例えば、福島第1原発のメルトダウンが起きたのは、3月11日の午後から始まっていました。12日には水素爆発が起きました。そのことが、報道されたのは、5月になってからでした。当時は菅総理、民主党の政権でした。どこの党が政権をとっても、国民には真実を隠蔽してしまうのです。だから、国民は、政府のいうことをますます信用しなくなるのだと思います。そういう意味では、新聞や週刊誌の役割と責任は本当に大きいのです。いまでは、インターネットでの、個人投稿が最も信頼できるのではないかと思います。
 現在、朝日新聞バッシングが続いています。さらに加えて、週刊新潮では、朝日新聞が、原発の除染について、手抜きしているという、記事も、実は朝日が金を払って、やらせていたのではないかと書きました。これには、朝日が直ぐに週刊誌に抗議文を書きました。何故って、この除染の手抜きについては、他の新聞社、テレビ、ラジオでも報道をしており、写真でも掲載されていたからです。
 このようにメディアの報道に関してみると、誤報は「日常茶飯事」といえます。政府にしても、経済は良くなって来ている……と、都合の良いことばかりを発表するので、国民の多くは、政府のいうことを信用していないのです。景気は横ばいですといえば、やはりまだ景気は悪いのだと理解しています。私の実感は、デフレはなくなっても、給料は下がり、物価は10パーセント上がっています。まして、来年の10月に消費税が10パーセントになれば、2400万人の年金生活者にとっては、ますます生活が苦しくなります。消費を節約しなければなりません。そうなれば、消費は縮小し、日本の経済は悪化していくことと思います。次の選挙が国民生活と平和への道を選ぶラストチャンスではないかと思います。
3 沖縄返還について
 1972年に沖縄がアメリカから日本に変換されました。その時、佐藤栄作総理は、アメリカと機密文書を取り交わしました。沖縄を返還してもらう変わりに日本政府は、相当な額を支払ったのです。それを、日本政府はいまだに否定しています。アメリカ政府は認めており、当時の外務省局長は、2年前に「自分が生きているうちに真実を語りたい」といいました。沖縄の返還に当たっては、多額の返還金を日本から支払いましたと、自らの言葉で真実を証言しました。このことについては、毎日新聞の記者が逮捕され有罪となりました。方法は、秘密漏洩ということでしたが、事実は、毎日新聞の報道が正しかったのです。毎日新聞は、報道の自由から、西山記者を最後まで弁護したことには敬意を払いたいと思います。
 「ペンは剣よりも強い」という言葉があります。文章を書くことによって生活をしている、プロの皆さんには、ちょっと聞いた話だけで記事にしないで、聞いて、聞いて、調べて記事にすることを強く要望します。10月も、残す所1週間で終わります。11月1日は、1890年に日本で点字が制定された記念の日です。あれから124年になります。点字の大切さ、ありがたさをかみしめたいと思います。
 ここて私から訂正をさせていただきます。この度、ノーベル平和賞を受けたパキスタンのマララさんについて、昨年の「もみじの人生日記」におきまして、タリバンによって射殺されたと書きましたが、私の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
 次回は、11月8日の予定です。




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