第11回 ゲスト「白井美由紀さん」
ゲスト登場、今回は、栃木県立盲学校で中学部まで学習し、その後筑波大学附属盲学校、大学、大学院へと進学し、現在、社会福祉法人東京光の家で、指導員をしている白井美由紀さんに原稿の協力をしていただきました。ますますのご活躍をお祈りいたします(阿久津付記)。
点字技能士合格までの道のりと思い
私は視覚障害全盲28歳の女性です。今回点字技能士として思わぬ合格通知書をいただくことができましたこと、心から感謝の気持ちでいっぱいです、ありがとうございます。こんな私の体験談で恐縮ではありますが、私も過去に、諸先輩方の体験記を読ませていただき大変励まされましたので、今後合格に向けてがんばっておられる皆様のお役に立てればと思い、体験談をお伝えさせていただこうと思います。つきましては、まず試験を受けようと思ったきっかけと私の仕事、次に勉強方法、最後に今後への思いといったような流れでお話させていただきたいと思います。
遡ること約一年前。2011年の11月に、私は初めて点字技能検定試験を受験しました。勤め始めた職場で求められていたことが大きなきっかけです。それでも一度目は点字の実技試験のみ合格、二度目の2012年の11月にようやく学科試験に合格することができました。正直、とても苦しい道のりで、まさに「コツコツ」といったような勉強を二年間続けてきたように思います。
さて、私は自分自身が視覚に障害をもっているため、地域の小学校や盲学校、入院先や大学・大学院、留学先等々でそれなりに壁にぶつかりながら歩んできました。それでも、どんな瞬間にでも、支えてくれる家族や仲間、先生方や福祉の方々がいてくださったからこそあきらめずに生きてくることができたのだと思います。そのため、しっかり資格を取って自立して、いつか視覚障害をもつ子供達や仲間たちのために何か恩返しをしていきたい、そう強く願いながら、専門的な勉強をし、ご縁で今の職場と巡り合うことができました。ここでは重複障害をもつ皆さんや中途で見えなくなった方々など、様々なニーズをもつ方々が、点字を通して仕事に励んでおります。役場から委託された市内広報や盲聾の皆さんへの雑誌、便利用品のカタログ、内閣府実施のアンケートや衆議院選挙の仕事などその内容は様々です。私は「職業指導員」という職員として、その利用者さんたちのお仕事をコーディネイトしたり、点字の指導をしたり、最終校正をしたり、時にはそれら仕事に関係のあるパソコンや点字プリンターなどのメンテナンスや企業とのやり取りなどをさせていただくような立場にあります。そんな仕事をさせていただいていることもあり、より正確な情報を購読者の皆様にお届けしたい気持ちや、利用者さんたちにより安心して仕事に取り組んでもらいたい気持ち、より外部の皆様から信頼して仕事を回していただきたいという強い気持ち、更に点字にも福祉にも携わる立場として誇りをもちたいという気持ちから、技能検定試験の受験を決めました。
けれども、その勉強から合格までの道のりは茨の道と言っても過言ではありません。まず一年目にしたことは、日本点字図書館から過去の技能試験の問題を取り寄せ、只管とき続けたことでした。初めての試みだったので、まず、どんな内容が出題されるのか、自分はどんな分野が得意で何が苦手なのか、客観的に把握しなくては話になりません。そして、問題を解くうちに時間も足りなくなったので、どちらかの合格だけを目標に絞り込みました。学科試験の傾向は掴めてきたものの、どうしても暗記する内容が多く、更にその年にニュースとなった話題が多く出題されることがわかってきたので、きっと一度目には合格できないであろうと見切りを付けました。そこで、学科試験の問題で問われていたことは「ブレイルメモ」という機械で法律や歴史など全てを書き取り、自分なりに大まかなノートを作っておくことのみがんばって、それらの知識を「理解」するところまでには至りませんでした。一方、自分が小さい頃から馴染み深い「点字」だけはがんばろうと思い、カセットテープを実際に回しながら点字化したり、校正箇所を正しく見つけることに重きを置いて勉強するようになりました。そして二年目の再チャレンジの際には、先ほどのブレイルメモのノートを参考に、自分なりの勉強方法を編み出していきました。
さて、全体を通して私が心がけたことは、受験の際の注意事項や、解答の書き方をしつこい程読み返し、過去問を解く度に、本番に即した形で答えていくことでした。答えがあっていても、このルールが見に付いていなければどうにもならないと思ったからです。特に校正問題の修正の仕方は特徴的なので、何ども解きながら答えて、正式な解答と照らし合わせ、間違っていたらもう一度書き直す、そんな地道な訓練が必要に思いました。そして、職場の仕事であっても過去問を解いていてもそうですが、常に疑問に思った点は『点字表記辞典』や『点字の手引き』を読みあさるようにしました。自分が「なるほど」と思えるまでしつこいくらいに引き続け、何ども引っかかりやすい部分はまたノートにまとめて見直せるようにしました。そして新しく似たような例が出て来た際には、理由と共に、この場合はどんな分かち書きにするべきか、どんな記号を使うべきかと、自ら考えるように心がけました。また、1点ずれていることや、情報処理点字や数学記号で引っ掛け問題も出てくるため、常に疑いの心で点字の文章を読む癖も付けるようになりました。更に、私は当たり前のように点字を読み書きしていたため、記号類もなんとなく見たことあるなあ・・・というくらいにしか考えていませんでしたので、音読する際には必ず、曖昧にしたりせず、『ふたえカギ』、『第3指示符『などと正式な名前で呼ぶようにしました。そうすることで、どんなシーンでこの記号が使われるのかを、よりイメージして覚えられるようになりました。細かい文法事項や古文の書き方や詩歌の書き方など、めったに触れる分野でない文章まで出題されるので、中学・高校の国語の勉強をしているかのような初心に戻った気持ちで勉強に励むことが大切だと思いました。
そして学科試験についてですが、これは本当に大変でした。上記に述べたノートを自分なりに年号に合わせて並べ替えたり、語呂合わせを作ったり、関係のある仲間同士を集めて、よりそれぞれの人物や法律などが頭の中でリンクできるよう勉強しました。それでも、それだけではとても足りません。点字毎日新聞やAMのNHK第二で放送されている『聞いて 聞かせて 〜ブラインド・ロービジョン・ネット〜』を聴き、「これは!」と思った情報はすぐに書き取るようにしました。また、少し疑問に思った周辺情報はインターネットも活用して、どんどん調べ、追加情報をノートに足していくよう努めました。視力・視野と身体障害者手帳の等級などの問題は、自分が全盲であることと小さい頃に手帳を取得していたため非常に苦手分野ではありましたが、「どんな情報でも知っておけばいつか誰かの役に立つ!」と思い込み、数字とにらめっこを何ども繰り返しました。自分が使っていない盲導犬や介護保険・生活保護などに関する話題も、なるべく対象の方に尋ねながら知識を増やすよう心がけました。それでも、例えば同行援護や虐待防止法など絶対に出題されるだろうと山を張った法律あれこれは、調べようと思ってもなかなか私たちが読める状態になった冊子が見つからず苦労しました。ネット上で見つけてもPDFの画像タイプであったり、厚労省のページもいまいちアクセシビリティーには十分なものではありませんでした。何より、出題範囲がとても多いことや、同じような勉強をしている仲間と語り合うこともできないため、正直真っ暗なトンネルの中、孤独な戦いを強いられているようなそんな気持ちの二年間でした。
最後に、点字は視覚障害をもつ私たちの文字であり、文化であり、命であると言われてきましたが、残念なことにそうではなくなりつつあります。点字は嵩張る、中途視覚障害者や高齢者にとって壁が高い、パソコンが普及していることなどがその理由だとは思います。私も正直、社会に出て晴眼者とお付き合いが増えれば増えるほど、点字を軽視してきたのも事実です。それでも、1890年に日本で初めて点字が生まれてから、視覚障害当事者者が文字のありがたさに感動し、結束力をもって情報保障や学問の必要性、知的欲求を満たしたいとの思いを胸に、点字出版物の必要性を訴え続けて来たのだという歴史があります。私自身も、点字の教科書や本がなければ、全くと言って言いほど、知識も言葉も経験も育つことはありませんでした。そして入院中や進路で迷っていた時、友人・先生方がくれた点字のお手紙を何ども何ども読み返し、生きる勇気をたくさんいただきました。点字は、知的な財産を次の世代に伝えるために必要不可欠であり、自ら意志表示でき、読みながら思考できる唯一の文字だと思います。私にとって、文字のない世界など考えられません。文字への感謝も忘れてはなりません。そのためにも、点字の必要性を私たち当事者が伝え続けること、そして、それらを作成する立場にあるのであれば、責任感をもって取り組んでいかなければならないのだと強く思います。また、校正するに当たり、「言葉は生き物であり、辞書が全てだとは限らない」とも感じています。書き手の意図するニュアンスを忠実に伝えることの大切さ、そして、ビジュアル的なPRを、言葉に置き換える上での表現力、読み手の立場を考える・・・。そういった、言葉に対する繊細な捉え方ができる心と、思いやりは忘れずにいたいと強く感じる今日このごろです。点字技能士の一人として、職場での仕事の上でも、こういった心構えを大切に、日々の業務に生かしていきたいです。長文にお付き合いくださりありがとうございました。まだまだ未熟者ですが、皆様の何らかのお役に立てましたなら幸いです。
2013年2月1日
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