初志貫徹12月号
最終回


 
 いよいよ師走になりました。皆様お元気ですか?私は、今年も健康に守られて年末を迎えることができました。とは言え、年末に風邪をひくことがときたまあるので、油断はできません。今回は、クリスマスに向けて、感動した話を書いてみます。
1 11月29日の朝日新聞のニュースの中に以下の様な話がありました。私の感想を交えて紹介します。
 貧困に苦しむ女子学生が、血縁関係のない一人の女性によって、短大を卒業し、来春、保育園で働くことができるようになったという話です。
 京都に在住の松田好子さん(73歳)が、新聞を読んでいたら、生活保護のために、進学できない女の子のニュースを知りました。そこで、松田さんは新聞社に電話をして、仲介をお願いし、2年間、短大の学費を支援したというのです。松田さんは、自分の年金130万円、そして、3ヶ月入院した時に出た保険金130万円を、彼女の学費のために捧げました。あわせて260万円でした。自分が健康で生活できる喜びを、困っている女子学生のために使いたいという願いでした。「足長おじさんならぬ、おばさん」の陰ながらの支援です。「貧困のために進学ができないのは、本当に悲しいこと、残念なことです。」と、記事にありました。
 私は、このニュースを聞いて、心が温かくなりました。クリスマスにふさわしい話ですね。
2 O.Henry「賢者の贈り物」
 クリスマスになると、この話を思い出します。
 1930年頃、ニューヨークに、デラとジムの若いカップルが住んでいました。貧しい夫婦です。デラは、彼に何かプレゼントをしたいと思いますが、手元には、2ドルもありません。考えたあげく、自分の自慢の長い金髪を、美容室に行って売ってしまいます。そして、夫がかねてから欲しいと願っていた、金時計のための鎖を買いました。夕方になり、ジムが仕事から帰って来ました。デラは、夫がどれほど喜ぶかとワクワクして待っています。そこへ帰ってきたジム!彼女のショートヘアを見て、がっかりします。何故か?ジムは、自分の自慢の時計を売って、彼女の美しい金髪のためにと、櫛のセットを買っていたのでした。
 愛するパートナーのために、自分が最も大切にしているものをプレゼントする物語!賢者とは、イエスキリストの生まれた所に、東方の国から、ベツレヘムにやってきた、3人の博士たちのことをさしています(聖書には3人と書いてはありませんが、そのように伝えられています)。
 この話を読む時、読者の心の中に、ポカポカするものを私たちに与えてくれます。この世の中、捨てたものではないと、感じます。まだ読んだことがないという方、一度呼んでみてはいかがでしょうか?
3 私の読書ノート
 今回は、人間の記録のシリーズの中から、自叙伝「野坂昭如 アドリブ自叙伝」を読みました。
 野坂さんは、1930年10月10日に、神奈川県熊倉市に生まれました。昨年の12月九日に亡くなりました。85歳の生涯でした。幼くして母と死別し、親戚の養父母に育てられました。生まれたのは、神奈川県鎌倉市でしたが、両親が亡くなってから、神戸の養父母の家庭で、妹と一緒に生活をしました。中学生の時に、神戸で空襲を経験しました。1945年3月17日、6月5日の空襲で、野坂さんは、養父母を失い、妹と2人だけになってしまいました。空襲の体験を通して、野坂さんは、戦争の恐ろしさと残虐、そして人間の罪の深さ、自分自身の惨めさを痛感したのです。妹の死を目の当たりにして、生涯、苦しむのです。そこから生まれたのが、直木賞を受けた「蛍の墓」でした。特に、2度に渡る神戸空襲の様子を読むと、リアルで、私もその場にいたかのような錯覚さえ覚えました。
 野坂さんは、早稲田大学に入学します。しかし、7年間在学して中退します。彼の人生で、刑務所に入ったり、歌手になったり、作家になります。また、テレビのタレントにもなり、参議員にもなりました。中でも、おもちゃのチャチャチャと、黒の舟唄が有名です。破天荒ともいう人性、2人、3人の人性を歩んだのではないかと感じました。日本図書センターから、2012年に出版されました。お勧めの本です。
 今年は、野坂さんの友人である、永六輔さん、大橋巨泉さんも亡くなりました。ザ・ピーナッツの伊藤エミさんも亡くなりました。70歳代ですが、私にとりましては、合ったこともありません。ラジオで長年聞いただけですが、とても親しく残念でなりません。
 11月に読んだ本、人間の記録から、徳川夢声、美空ひばり、石橋湛山の3人がいます。それぞれ印象深い自伝です。特に、徳川夢声さんの自伝では、戦争前、戦中、戦後の話をNHKで仕事をしていたので、詳細にわたる日記と報告が記されておりました。
 戦争中、アメリカは、日本の短波放送、大本営の発表をすべて、ロサンゼルスでキャッチし、大統領に報告していました。 日本でも、同様に、広島で英語の放送を聞いて翻訳していました。しかし、日本では極一部の人だけにしか知らされなかったのです。
 徳川夢声さんは、このことに関して、アメリカを困らせてやろうということで、ダメ語での放送を提案しました。つまり、英語をちょっと入れて、後は、適当な言葉で混乱させてやろうという提案でした(宇都宮では、これを「ごじゃっぺ」と言います)。当初は、みなさんから笑われましたが、軍当局が採用して、夢声さんも参加しました。アメリカからの反応はしばらくありませんでした。やがて、インドの仏教のお経のような、意味不明の放送が日本向けに帰ってきたとのことでした。私は、思わず声に出して笑ってしまいました。
 さて、今年も数十冊の本を読みましたが、年末から年始にかけて、私から皆様へ3冊の本を、お勧めいたします。
@西加奈子著「サラバ」
A黒柳徹子著「トットひとり」
B村田沙耶香著「コンビニ人間」
 皆様のお勧めの本も、本ページに紹介していただき、感想など聞かせていただけましたら感謝です。
 1年間お付き合いいただきましてありがとうございます。本年はこれにて千秋楽といたします。「初志貫徹」です。同窓会の事務局に、心より感謝申し上げます。
 来年も、新たなテーマで、一月に一度書きたいと願っております。この場をお借りして、新年のご挨拶とさせていただきます。
 健康に留意して、平和な新年、幸せな新年になりますようにお祈りいたします。
 12月10日記


 初志貫徹  /  トップページへ